2011/9/19

「ものづくり」というマジックワードについて考える

今晩のディナーの話題の一つだったのが、「ものづくり」という言葉について。「ものづくり大国」って死語ですよね、という話もありますが、それで片付けてはいけない気もしていて、忘れないうちに論点を整理しておきたいなと思うのです。

  1. ものづくりは極めて高度化している
  2. しかし、ものづくりはしばしば思考停止ワードである
  3. でも、僕はものづくりは大事だと思う

1.ものづくりは極めて高度化している

このポイントに関しては @gamella が先日大いに語ってくれています。

「製造業は新入社員の仕事」じゃないの続き – Future Insight

ものづくりってどこからどこまでかって話の認識って大事だと思うんですよね。例えば、新製品を売ろうとする時に、基礎技術を固める幾年にも渡る研究開発があって、それを効率的に生産する製造工程があって、それを適正なタイミングで市場に流通させるための生産管理があって、更にはそれを顧客の手まで届けるデリバーのシステムがある。このどこからどこまでをものづくりというかというのは実は個別の事象に拠って異なると思うのです。

iPhoneのことを考えたって、どこからどこまでがエッセンシャルでどこからどこまではものづくりの範疇ではないかって切り分けられますか?今の時代にあって、ものづくりって本当に高度化していて、というよりはそれは一つの文脈で、何か一つ欠けても成立し得ないことなんです。

2.しかし、ものづくりはしばしば思考停止ワードである

これは由々しき問題だと思っていて、「ものづくり大国、日本」みたいな標語はかなり危険なものだと思っています。日本はものづくりで成長してきたという認識は、あまりよくないと思っています。例えば任天堂のWii。あれって何が凄かったって、核家族化が進み、皆が一部屋ずつを持ち、それぞれの部屋にTVないしPCを持って、リビングに集うことがなくなった、そういうことに対するアンチテーゼとして、「リビングを楽しくする」ことを打ち出したわけですよね。これってつまるところ問題解決なんです。実はすごく社会性のある創発なんです。このポイントを忘れてものづくりを語っちゃいけないよなと思います。

一方で、問題を解決できない「ものづくり」が行われているのもこの国の問題です。いかにイシューを提言して、それに対するソリューションを提示するのか、というのが「ものづくり」の社会的な価値です。例えば靴一つ取ったって、今ではある意味、ファッションがメインかも知れませんが、その昔は、長距離を旅するために必要だったり、山野を駆け抜けるために必要だったり、といった問題の解決があったんです。それを忘れて、「何となく新しいもの」を生み出したり、「何となく作り続ける」ことを、「ものづくり」として認識するのは危険なことだなあと思います。

3.でも、僕はものづくりは大事だと思う

とは言え、先述の記事にもある通りファブレス化が進み、ものづくりのプロセスが多様化し、生産が分散化されていく中で、ものづくりを生業にするというチョイスは価値が薄れると捉える向きもあるかも知れません。でも僕は全然そんな風に思いません。今読んでいる本がたまたまクリティカルなのですが。

Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す (Make: Japan Books)
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この本はアメリカのDIY雑誌『Make』の編集長が自分がDIYに取り組む過程をユーモラスなエッセイで綴っているのですが、ここで言っている大事なことが「大いに挑戦し、大いに失敗しろ」ということです。まあ、当たり前のことですよね。ただこれはとても大事なことで、個人の成長にあって、挑戦して失敗してする以外に成長の方法はなく、それを一番具体的な形で体得できるのって、やっぱり「ものづくり」だと思うのです。

別に、触れるものだけが「もの」ではありません。無形の、但し人の手によって挑戦し、失敗することで形作れるものはたくさんあると思います。もしかしたら、プロモーションの設計がそうであるかも知れないし、コミュニケーションのデザインがそうであるかも知れないし、ユーザインタビューの積み重ねがそうであるかも知れない。

3つのポイントを挙げて、僕が結局何を言いたかったというと、「ものづくり大国、日本」は死語になったとしても、若者にとって「ものづくり、かっこ悪い」になったとしたら、それはこの国にとって、大きな機会損失になるとおもうのです。ものづくりの本質って、粘り強くトライアンドエラーを続けることとか、細部に宿る絶対に譲れないポイントを見極めるとか、可能な限りあるべき姿が再現されるまで諦めないとか、そういう物事に接するための基本的な姿勢だと思います。

そしてそれを学び得る日本人にとっての一番身近な手立てが「ものづくり」であることは、僕個人としては今後も変わらないのではないかと思います。だから若い人には高度化した「ものづくり」が織り成す世界に目を向けつつ、個人が何かを生み出す手段としての「ものづくり」の本来持っている価値を見失わないで欲しいなと思っています。

混迷する時代にあってこそ、生み出す、ということは財産になる気がしています。

加藤 康祐 / 企画・設計

プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。Webデザインを入り口に、2005年よりフリーランスとしてのキャリアスタート。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート。ラグビーと料理、最近イラスト。

加藤康祐企画設計

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