2006/1/22

物語とイニシエーション

物語は1種類しかない、という話

その「映画評論家」島田裕巳氏のいうことにゃ、「物語は1種類しかない」のだそうだ。

聞いたときは「え!?」と驚いたのだが(何の前置きもなしに「物語ってのは1種類しかないんです」っていわれたら大部分の人はびっくりすると思う)、正確には「人を感動させる物語」は1種類しかない、ということらしい。で、それは何かというと、「イニシエーション」だという。

島田裕巳氏というのは宗教学者らしいのですが(昔読んだ小林よしのり氏の『ゴーマニズム宣言』に取り上げられていた気がする)、人を感動させる物語は「イニシエーション」だという。イニシエーションというのはつまりこういうことらしいです。

特定の集団に成員として加入する際に行われる儀礼。それによって社会的・宗教的地位の変更が達成されるが、しばしば肉体的・精神的試練を伴う。若者組のような年齢集団への加入や成人式もその一例。加入儀礼。

コンテンツ分野に潜む危機を議論

島田氏は宗教学ではイニシエーションという概念があることを挙げたうえで、イニシエーションとは人間が成長していくようなパターンのようなものを指す、と説明。映画、アニメ、演劇などは基本的にすべて、イニシエーションになっているという考えを示しました。

その好例として島田氏は映画「ローマの休日」を示し、オードリー・ヘップバーン扮する王女が成長していく過程をうまく描いていると述べました。島田氏によりますと、物語とは、どういうイニシエーションを描いているか、ということです。

しかし島田氏は最近のハリウッドだけでなく日本映画でも、そうしたイニシエーションを軸にした物語の基本構造が揺らいでいると述べて、それが映画や演劇が面白くない理由だと指摘しました。

たしかに一理あると思うのですよね。イニシエーションを軸としたコンテンツの典型例というと、例えば司馬遼太郎氏の歴史小説であったり、富野由悠季氏の『ガンダム』シリーズだったり、話題になった『電車男』だったりするわけです。もしかしたら、『嫌われ松子の一生』だって読んでて心地良い成長じゃないかも知れないけれどもイニシエーションかも知れないし、『水戸黄門』だってご老公は変わりませんが、ご老公の周囲にいる人達のイニシエーションの物語かも知れません。

一方で、恩田陸の小説って果たしてイニシエーションを軸としているか、というとそうでもない気がします。確かに学園モノなんかはそういうニュアンスもあるかも知れません。でも難敵に立ち向かって、主人公が成長するという類のものではないですね。イニシエーションが人を感動させるということは、言い換えれば、他人の自己実現の成功事例に感情移入するということだと思います。

「イニシエーションを軸にした物語の基本構造が揺らいでいる」という島田氏の発言がありましたが、言い換えればこれは、イニシエーションへのアプローチが多様化しているということではないかと思います。そして、イニシエーションを基軸としない物語が人々に受け始めているということかも知れません。僕はその基軸が「環境」とか「境遇」とか「世界観」に移行してるのではないかと思いました。

例えば先述の『嫌われ松子の一生』の環境。『1リットルの涙』や『世界の中心で愛を叫ぶ』の境遇。宮崎駿のアニメの世界観。「日常」の中にない、そう言った「環境」、「境遇」、「世界観」の中のみで通ずる物事の論理、感情の起伏、人の繋がり。そういったものが、主人公の成長以上のウエイトを占めるようになっていることがあるんじゃないでしょうか。

話反れますが、社会学では「社会」の最小構成単位は「家族」だと言いますよね。では「物語」の最小構成単位は何ですかね。「会話」なのか、「キャラクター」なのか、何なのか。

元に戻りますと、ブランド論でも物語の重要性が語られてるわけですから、ブランドが発信するメッセージにブランドの成長っていうのが含まれるってのは共感を得やすい可能性がありますよね。そうすると、ブランドのイニシエーションについて、というアプローチは、本が一冊書ける内容かも知れません。

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加藤 康祐 / 企画・設計

1980年1月12日生まれ。フリーランス歴15年。プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。学生時代にデザイン会社でWebデザインを経験。2005年よりフリーランスとしてキャリアスタート。これまでに個人から上場企業まで、100以上のクライアントとのプロジェクトを経験。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの編集・運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート等。趣味はラグビーと料理。Keep the head up, Bind tight & Stay low.

加藤康祐企画設計

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