2006/11/10

天は人の上に人を作らず、天は人の下に人を作らず

「天は人の上に人を作らず、天は人の下に人を作らず」とは福沢諭吉氏の『学問ノススメ』の冒頭に出てくる有名な言葉です。人類の普遍的平等を謳った一節に読めますが、これには続きがあります。

されば天より人を生ずるには、万人は万人皆同じ位にして、生れながら貴賎上下の差別なく、万物の霊たる身と心との働きをもって天地の間にあるよろずの物を資り、もって衣食住の用を達し、自由自在、互いに人の妨げをなさずして各々安楽にこの世を渡らしめ給うの趣意なり。

されども今広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや。

その次第甚だ明らかなり。実語教に、人学ばざれば智なし、智なき者は愚人なりとあり。されば賢人と愚人との別は、学ぷと学ばざるとによって出来るものなり。

つまりは『学問ノススメ』という著書名で明らかな通り、「学びなさい」ということに尽きるのです。「天は人の上に人を作らず、天は人の下に人を作らず」とは前提条件として提起された話で、実際のところ大事なのは「賢人と愚人との別は、学ぷと学ばざるとによって出来るものなり」というところになります。福沢氏の文章は平易で平明ですから、読み流してしまいますが、「賢人」と「愚人」の区別というのは実に辛辣のように思います。

しかし、こう言った考え方は決して新しいものではなく前文で引用されている『実語教』は平安時代の書物で、「山高きが故にたっとからず、樹有るをもってたっとしとす。人肥たるが故にたっとからず、智有るをもってたっとしとす」という一節が有名です。福沢氏がただの西洋文化オタクではなく、古来よりの日本の教育倫理に敬意を払いつつ、その上で新しい時代を築く啓蒙思想家として活動していたことがわかります。

日本人が世界的に「勤勉」などと言われるのには、こういった歴史風土が日本人に染み付いているからかも知れません(もっとも今はインド人の勤勉さの方が、世界での評価は高いようですが)。

何故今更「天は人の上に人を作らず、天は人の下に人を作らず」という言葉を引用したかと言うと、先日読んだ音楽家、久石譲氏の『感動を作れますか?』の中で気になる話があったからです。

都市型の会社勤めのような生活をしていると、土に根ざしているわけでもないし、自然の中で家族、一族が協力し合って暮らしているわけでもない。ものを作り出す実感も、根っこもない。では、その社会形態の中に身を置いて、自分は究極、何を目指しているのか。

意義ある仕事か。会社において最も意義ある仕事といえば?それは最終判断を下す立場。つまり、会社に入って究極目指すところといえば、トップに立つこと、社長になることではないか。

これはおそらく久石氏自身意図して言い切っている言だと思います。「オンリーワン」ブームへのアンチテーゼとして提起されている文章ですから。ただ少し高度経済成長期→バブル期を経てきた古臭さみたいなものは感じます。ただひたすら上を上を目指すという頑なな意思の強さみたいなもの。

僕は就職活動の際に持ちネタとして、「CEO(Chief Exective Officer)ではなくCOO(Chief Operating Officer)を目指したい」ということを言っていました。企業経営の最終判断を下す立場よりも、業務の最前線に常にいたいという展望を持ってました。もっと言えば、「第二の男」に憧れていた自分がいたと思います。諸葛孔明や黒田官兵衛のような歴史小説に出てくる軍略家、参謀の役回りです。後は単純に上に誰かいた方が、動き易いタイプの人間だということもあります。僕は自己チェック機能が弱いので、常に誰かにチェックしてもらいながら、僕はひたすら突き進み、誰かの制止で立ち止まって考えて、また歩みを続ける、という仕事のやり方の方が向いていると思うのです。

今は個人事業がメインですから上司はいませんが、しかし僕のボスはお客様ですから、僕のプロジェクトはCEOがお客様、COOは加藤康祐という構図になっていると思います。

『学問ノススメ』を前提条件として「オンリーワン」を考えると、もう少し世界が広がると思います。久石氏も「ナンバーワン」を目指した結果が「オンリーワン」になったというならそれもよし、但し「オンリーワン」に甘んじるなというような論旨のことを書いています。今の立場に意味のない意味づけをして努力を怠るような愚を犯すなということでしょう。

ただ改めて「ナンバーワン」になる重要性を説いても、それは今の時代にそぐわないようにも感じています。多様化していることを理由に自分のポジションに甘んじるのは良くないですが、しかし、多様化しているという事実も受け入れなければいけない。

サイバーエージェントの藤田晋氏の「目標に対して奴隷のように働いている」という言葉が鮮烈でした。藤田氏はサイバーエージェントの社長ですから、組織の上を目指さなくていい立場なわけですが、そういう人が「目標の奴隷」になっているというのは新しい価値観で、しかし多くの人の人生にも必要な考え方だと思います。

人が個人で学べることには限りがあります。使役されて初めて身に付けられることが多々あります。揺るがない目標に奴隷のように使役されながら更に育っていく、ということは21世紀的「学問ノススメ」かも知れません。

(2012-10-5)
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加藤 康祐 / 企画・設計

1980年1月12日生まれ。フリーランス歴15年。プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。学生時代にデザイン会社でWebデザインを経験。2005年よりフリーランスとしてキャリアスタート。これまでに個人から上場企業まで、100以上のクライアントとのプロジェクトを経験。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの編集・運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート等。趣味はラグビーと料理。Keep the head up, Bind tight & Stay low.

加藤康祐企画設計

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