2010/6/30

編集は必要か?

パブーで電子書籍を出版してみて1週間です。お陰さまで細々とですが売れています。Twitterなどで感想を聞かせてくだされた方もおり、嬉しい限りです。また、「僕もやってみようかな」的な話もチラホラ聞くようになりまして、そういう意味でも、真っ先に今回首突っ込んでみた価値はあったのかなあと思います。

そんな素人電子書籍出版の世界を体験している僕ですが、Twitterを拝見していると、電子書籍に関して「編集者の必要性」に関する発言を非常に多く目にする気がします。つまりは「出版社」の必要性が失墜したとしても、「編集者」の必要性は今後益々変容こそすれ、増大してくるであろうと。ちょっと穿った見方をすると、そういう意見は例えば佐々木俊尚氏を初めとして、割と出版編集界隈から聞こえてきている気がしますし、もしかするとePub出版におけるDTPデザイナーの必要性的な議論と似通ってくるのかも知れませんが、兎にも角にも、その辺り、いわゆる業界外の素人的に考えるとどうなるかな?と思ったわけです。

書籍も勿論、WEBのコラムだって、普通は編集者の方がいますし、校正もかけますよね。昔、WEBコラムの更新業務をやっていた時に、校正前の原稿を見て、結構乱暴なものが上がってくるんだなあと思ったりもしました。商品というか、製品というか、クオリティコントロールという意味で、編集者の必要性は感じます。原石の研磨師みたいなものですかね。

一方で、素人電子書籍出版に編集者の介在する余地があるのかという疑問も出てきます。パブーですと、販売手数料3割以外は著者の取り分ですから、編集者の方とシェアする余地はありそうです。ただ、パブーのような電子書籍出版プラットフォームの魅力の一つに、イニシャルコストが執筆の労力以外はゼロ、という点があると思います。ここが変わって来るようだと、ちょっと難しくなりそうですね。

例えば、成果報酬的な考え方ですと、イニシャルコストはゼロで従量課金のようなものですから、比較的素人でも関わりやすいような気がします。一方で、人件費として時間拘束的に費用が発生するようなことだと、イニシャルでコストが必要になって来るので、素人電子書籍出版のダイナミズムは活かせないかも知れません。成果報酬であればいいのかというと、著者は出版したいモチベーションがあれど、編集者に取ってのアドバンテージがどこになってくるのかという問題があります。パブリシティ、ってパブリシティがない人が出版するから素人、と言っているわけで、そういう意味では著者と編集の間にもそれぞれのパートナーを選定する眼が必要になって来ます。

ただ、そうまでして電子書籍に編集を入れたいか、という疑問も当然あるわけです。例えば100万部売れる本を作ろうと思ったら、編集者必要かも知れないですが、1,000冊売れる本だったらどうですか?多くの人が関わるプロの出版の世界だったら、100万部売れないと成立しないビジネスになっている可能性がありますが、個人が趣味の延長で書籍という形で自分の綴った文章を販売するのに100万部売れる必要はないわけです。100円で売っても1000冊売れば利益は70,000円出ます。それで充分と考える向きもあるんじゃないですかね。

そして、そういう規模のタイニービジネスの集合体であれば、1冊の本が出版されるということではお小遣い稼ぎにしかならなくても、プラットフォーマーにとってのマーケットとしては成立してしまう可能性があります。イメージ的にはiPhone、iPadのApp Storeに近いかも知れません。もしくは、Etsyのようにハンドメイドの商品を小ロット多数誰でも売り買いできるようなイメージに近いかも知れません。世の中に編集者と呼ばれる人は数多くいるのだと思うのですが、これから生まれてくる新しい著者の全ての受け皿になるとは到底思えません。でも人間、環境が整ったら、出したくなる欲求は出て来ると思うのですよ。

そうすると、素人電子書籍出版的な世界というのは、もしかしたら、書籍出版の世界が変わる、みたいなことではないのかも知れません。別次元別世界になる可能性があります。半製品が流通するプラットフォームでも、マーケットとして成立する可能性がある。そこで人気を得るのは、もしかしたら、YouTubeで人気を集めるような、Ustreamで人気を集めるような、半製品かも知れません。

つまり、製品として電子書籍がヒットするには編集者が必要そうですが、ヒットが生まれなくても個々のビジネスは成立して、それが新しいエコシステムになっていく可能性があるということです。あくまで可能性でしかないですし、じゃあ書籍の世界で消費者が使っていたお金が、幾許かそちらにシフトするのかと考えた時に、それは消費者、というか読者にとっては、同じモチベーションのお金の使い方ではないかも知れません。でも現段階ではシフトする可能性も否定できないわけです。

実際にパブーを使ってみてわかったことですが、本を出版することと、本を販売することは別物です。そういう意味では編集者という、コンテンツに対するディレクター、そして、パッケージを売るためのプロモーター、的な人はいればいるに越したことはありません。でも一方で、そうすることに価値がある人と、そうでない人と出て来るんじゃないですかね。僕なんかは、元々パブーで「本を出版できる」というところに魅力を感じて始めたのですが、実は「自分の本を自分で売れる」という2nd Phaseがあることに気づいて、ちょっとDIY精神がメラメラしていたりするのですよね。

ですから、編集ということを考えた時に、その採算性ということにフォーカスがいくのだけれども、関わる人の立場や目的、コスト感や規模感で、編集の必要性ってマチマチで、逆を言えば、編集が必要になる世界って、これから先開けている地平にあって多分に限定的という感じもしています。勿論、編集をプロでやっている人が、ペイしない仕事をする必要もないのだと思いますし。ただプロに対してペイしないと、マーケットとして成立しないかというと、そうでもなさそうだぞ、というのが僕が今持っている展望です。

とまあ考えてきましたが、「出版」というと結構敷居が高く考えがちですが、究極「人一人が生きている」ことそのことが社会における最大の文化事業なので、どんどん素人電子書籍出版が広まっていくといいなあ、と個人的には牧歌的に考えているのですけれども。

加藤 康祐 / 企画・設計

プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。Webデザインを入り口に、2005年よりフリーランスとしてのキャリアスタート。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート。ラグビーと料理、最近イラスト。

加藤康祐企画設計

是非、フォローしてください!
Twitter / Instagram

(2012-10-5)
売り上げランキング: 14,705
100円