2006/9/9

リスクと担保

生来博打を打てない性分でして、「リスク」に対して割とおっかなびっくり構えています。ただラグビーに、「No Pain, No Gain」という言葉があるように、人生は、ことにビジネスは、「No Risk, No Return」ですから、リスクがあるかないかということよりは、リスクが高いのか低いのかという価値尺度が重要です。

アルピニストの野口健氏がTVで語っていたところによると、「よく、無理をしないで、と言われるけれど、エベレストに挑戦をするということは無理をしに行くということ、肝心なのはどこまでが許容範囲の無理で、どこからが危険領域の無理なのか、ということを判断できること」という旨のことを語っていました。ハードルはいずれにせよ飛ぶけれども、どの高さまでが自分のスペックで可能な範囲なのか見極める力というのが大事ということでしょう。

ましてやアルピニスト=冒険家は命を賭して困難に立ち向かうわけですから、リスクの見定めを誤るということは命を失うことですから、状況を見極めて場合によっては諦める(野口氏も二度エベレスト登山に失敗しているそうです)、「英断」が必要になってきます。

自民党は再挑戦の出来る社会を作るようなことを提言していますが、それでもやはり日本ではリスクを背負って失敗すると、借金を背負って泥沼にはまって立ち上がれなくなる、そういう博打的なリスクテイクをせざるを得ない状況があることは確かだと思います。尤もリスクマネージメントということは既にビジネスの世界において一般的なことですし、定量的に推し量れる部分に関しては、「リスクとの付き合い」が大分理知的になっているということが言えると思います。

よく、WEBサイトを作るときにする話ですが、何のためにWEBサイトを作るのか、もちろんクライアントはクライアントなりに問題意識があり目的もあり方法も考えているのですが、ことにブランディングという視点からWEBサイトを捉えてもらうために、僕は「WEBサイトは企業の信用を担保するツールです」ということをお伝えしています。

これがおそらく「WEBサイトは企業の信用を勝ち取るためのツールです」と言ってしまうとおそらく嘘かビッグマウスということになると思います。勿論、WEBサイトを展開することで、企業の業務に対してプラスのことも多々あります。新規案件受注のトリガーになったり、円滑なユーザサポートが行えたり、もちろん、製品のプロモーションができたり。それは勿論そうなのですが、その企業が持つ企業像を100%反映させたWEBサイトを持たないと、それは今の世にあってマイナス要因なのだと考えています。言うなればリスクヘッジです。

WEBサイトは優良なサポーティングパラグラフになる可能性があります。リスクヘッジとは即ち、冒頭で述べたハードルを飛び越える際の高さ、その高さを可能な限り低くする効果を持っています。企業が困難に直面したとき、育て上げたWEBサイトが企業体を支持するための一翼を担う、というのが僕が持っている企業WEBサイトの完成イメージでもあったりします。

これはWEBサイトの能力を過小評価しているということではなく、むしろビジネスで自社の価値を担保する材料を持つということ自体が、非常に難易度が高く、また重要性の高いテーマだと思っているのです。

これはビジネス領域だけでなく、個人ということに目を向けても同じことが言えると思います。「人」そのものの価値を担保してくれる材料は何と少ないことか。担保ということに安定を求めるのであれば、手持ちの資産はいくばくもないことがわかります。例えば人脈だったり、技術だったり、実績だったり、所属であったりするでしょう。どれだけ自分の価値を担保する材料を持っているかクリアにするためには、転職サイトに登録すればわかります。リクルーターは担保された情報を見て、「人」の価値を評価するわけですから。新卒の就職活動だって同じです。実際は会って話すことが大事ですが、そこまでのとっかかりは、その人がいかに自分の価値を担保できているかで決まります。だから、学歴も未だに大事なわけです。

幸運にも僕は個人事業主でして、裸一貫で仕事をしているとは言えませんが、まず無手勝流というか、木刀振り回して銃兵隊と戦っているような、幕末の新撰組対官軍のようなことをやってるので、信用を担保するということは大事です。司馬遼太郎氏の『燃えよ剣』では、政治的名誉を求める近藤勇とそれを諌める土方歳三が描かれていて、武士の美学は土方歳三にあるよう描かれていますが、それでもやはりトップの責任を持つ人間は政治的名誉、この場合は新撰組のレゾンデートルを担保する名目を求めたのです。刀でひたすら斬り結ぶことを土方歳三が新撰組の信用を担保する材料としたことは美しいですが、しかしそれはおよそあやふやでつかみどころのない担保の在り様だったに違いありません。

個人事業主として仕事をしていく上で、しばしば事業主である必要はないのではないかと考えています。デザインの仕事は言わばクライアントがリスクを持ってプロジェクトを進める客商売ですし、個人事業主とは言え事業主を名乗るのであれば、自らがリスクをとって事業を推進するだけの気概と実力と体力が必要でしょう。そう考えると個人事業主などという呼称は、随分ぶっきぼらぼうなものだと思うこともしばしばです。

とは言え、信用を担保する所属組織がないゆえに、すなわち個人事業主であるがゆえに、リスクマネージメントは常にしていかなければいけませんし、できる限りのリスクヘッジをしていかなければなりませんし、クライアントからの信頼を得るためには、自分の信用を担保できる質の高い材料を一つでも多く準備しておかなければなりません。

そもそも、個人事業主として生計を立てていくということ自体が、野口氏が言った「エベレストに挑戦をするということは無理をしに行くということ」に近いもので、それがゆえに「リスク」とそれを補う「担保」については常に頭の中で考えながら、仕事をしていかなければいけないのだと思っています。

加藤 康祐 / 企画・設計

プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。Webデザインを入り口に、2005年よりフリーランスとしてのキャリアスタート。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート。ラグビーと料理、最近イラスト。

加藤康祐企画設計

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