2007/6/10

IDEO的なこと、Google的なこと、21世紀的なこと

IDEOは世界的なデザインファームで、『発想する会社』が出版されて以降、日本でもかなり注目されるようになった企業だと思います。一方でGoogleは今や世界中の学生が最も就職したい企業として名を挙げる巨大企業になりました。この2つの会社には共通項があると思います。それは、上流工程、下流工程に拘わらず、手を動かし物を作って検証し、トライ&エラー、スクラップ&ビルドの繰り返しの中でイノベーションを生み出していくという仕事への取り組み方にあると思います。

ただ悶々と机上で思い付きを並べて転がしてみてもイノベーションは生まれず、アイデアをプロトタイプにし議論を重ね試作を重ねテストを繰り返し、モノ作りの過程の中でアイデアを煮詰めていくというやり方は、非常にプリミティブなやり方のようにも思えますが、かたやダボス会議で発言するようなデザイン企業、かたや世界一学生が憧れるネット企業、その双方が経営の根幹に「作ってナンボ」という姿勢を取り入れてるところを見ると、それは21世紀的な企業活動の大きな潮流のようにも思われます。

たまにそろそろ制作はしなくていいんじゃないかというようなアドバイスをもらうことがあります。仕事が取って来れるのであれば後は外注先に仕事を発注すれば仕事は回るし効率がいいのではないかということです。しかしながら、経験則としてイノベーティブなアイデアやイノベーティブな提案というのは、そのほとんどがモノ作りの過程において捻出されて来ることが多いという実感があります。

勿論、経験豊富なディレクターなら、プロジェクトの頭からそう言ったことをコントロールできるのかも知れませんが、WEBの仕事に触れ始めての僕のキャリアなんてたかだか10年程度ですし、外注先に仕事を丸投げするような仲介業では、わざわざ個人で仕事をしている意味を見出せません。自分でできない部分は勿論協力会社の力を借りますし、色々な方と一緒に仕事をしないと刺激もないですが、コアであるデザインの部分は今のところ自分の担当から切り離しはしないですし、最終製品まで窓口に立った以上はフォローできなければいけないと思っています。

世界的にMFA(Master of Fine Arts)への注目が高まっているそうです。MBA(Master of Business Administration)は起業家や外資系企業で活躍するための資格として長らく日本でも羨望の的でしたが、今欧米の企業が血眼になって採用しようとしているのはMFA取得者、もしくはMFA型の人材なのだそうです。

たしかにデザインにはバウハウスから連綿と続く100年の歴史があり、デザインのメソッド、方法論、思考体系もかなり緻密なものになって来ています。ただその上で、そういった理屈に精通しているだけでなく、「手を動かし物を作る過程からイノベーションを創発できる人材」というものへの注目が集まっているのだと思います。逆に言うと「アイデア企画」と「モノ作り」が最早切り離せない時代になって来たということです。

母校であるSFCを再評価しようと思うと、その一番の魅力は文系理系に拘わらず「モノ作り」をする機会に恵まれるということだと思います。勿論、学生のうちにイノベーションと呼べるようなものを紡ぎ出せるかどうかは個人の取り組み方いかんのように思いますが、社会人になってから、そこで学んだ習慣とか姿勢みたいなのは人によっては生きて来る部分があるのではないかと思っています。

奥出直人氏は『デザイン思考の道具箱』で「創造性は資質ではなく方法による」という主旨のことを述べており、奥出氏の研究会でのイノベーションを生む「方法」を説明しています。SFCはどうやら「IDEO的なこと、Google的なこと」の文脈に倣って「21世紀的なこと」を模索しているようです。

考えてみれば世界的に評価の高い日本の町工場では、数少ない職人の弛まない技術向上の努力の繰り返しによって、競争力が高くワンアンドオンリーなイノベーションが生まれています。こういう人達の仕事への取り組み方を形式知化し、企業活動や商品開発の現場に落とし込むことができれば、これまでにないイノベーションが大企業にも起こり得るはずです。IDEOがやってることは100年間で育まれたデザインの方法論を顧客企業の経営レベルまで落とし込んでいることに他ならないと思うのです。

日本人はむしろ「モノ作り」という言葉には敏感で、トヨタだって「モノ作り」の会社です。ただここに来て、もう一度「モノ作り」の価値の「再定義」と「再発見」が必要な局面に来ているのではないかと、IDEOやGoogleを見ていて思わされます。「モノを作る過程でイノベーションは生まれる」ということが真であれば、「モノを作らないところにはイノベーションは生まれない」ということも真になります。サービス業は?金融業は?と考えてみるとまた違ってくるのかも知れませんが、そういうインタンジブルなものでも近しいことは言えるのではないでしょうかね。

20世紀の終わりにTom Peters氏は「ホワイトカラーは近い将来激減する」という予測を立てました。グローバリゼーション、産業構造の変化、ITの普及と進歩を見ていると、確かに昔ほどホワイトカラーは必要のない時代になってくるのかも知れません。そう考えると「モノ作りを通して考えられる人材」というのはこれまで以上に大事になってくると個人的には感じています。

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加藤 康祐 / 企画・設計

1980年1月12日生まれ。フリーランス歴15年。プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。学生時代にデザイン会社でWebデザインを経験。2005年よりフリーランスとしてキャリアスタート。これまでに個人から上場企業まで、100以上のクライアントとのプロジェクトを経験。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの編集・運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート等。趣味はラグビーと料理。Keep the head up, Bind tight & Stay low.

加藤康祐企画設計

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