2006/7/20

歴史は作られている

「歴史は作られる」とは誰の言葉でしたか(知ってる人いたらご一報ください)。歴史は一部の知識層によって作られるもの、というのは良く言う話です。高名な学者の文献が残っていたとしても、保存状態が非常に良い遺跡が発掘されたとしても、歴史学者や考古学者がそこから憶測し類推し歴史という物語は組み立てられていくものです。

Googleは今最も注目を浴びていて、かつ、最も成功しているWeb 2.0系の企業ではないでしょうか。その凄さは恐ろしい勢いで世の中にある情報をアーカイブ(書庫)化し、構造化し、記録しているということです。GoogleにはPageRankという仕組みがあり、より有用な情報というのを機械的に選別し、検索エンジンにしているのです。1年前の記事になりますが、『ウェブ進化論』の著者、梅田望夫氏が自身のブログでGoogleのミッションについて書いています。

My Life Between Silicon Valley and Japan – ネットの開放性は危険で悪なのか巨大な混沌こそがフロンティア

「世界政府っていうものが仮にあるとして、そこで開発しなければならないはずのシステムは全部われわれが作ろう」。これは、世界中が注目するシリコンバレーのベンチャー企業グーグルの開発陣が持つミッション(使命)である。グーグルは「不特定多数無限大の人々によって作られ、日々増殖する地球上のすべての情報を、瞬時に整理し尽くす」ことを目指し、玉石混交のネット上から「石」をふるい分けて「玉」を見いだす技術に磨きをかける。

僕はこういう世界政府構想よりむしろ、Googleの登場によって、これからの「歴史」が今までの「歴史」と全く違うものになるのではないかということを危惧します。個人がそれぞれの視点を以って克明に時代を代表する事件から、淡い恋の気分までをインターネットに掲載しています。それらがGoogleによって整理され構造化され記録されていく。そうすると今までにはなかった「不特定多数無限大の人々」の集合知が唯一無二の歴史家と成り得るように思うのです。

アジア外交では「歴史に対する共通認識」が欠けていると言われています。小泉首相が訪問したイスラエル、パレスチナの問題でも禍根となっているのは「歴史」だと思います。こうした歴史が世界中で共通認識となることは紛争問題や宗教問題に目を向けると非常に重要なことだと思います。

「Google History」なのか、「Google Timeline」なのか、個人の情報を時系列で記録するのはDandelifeなどのサービスが既に海外で始まっていますが、インターネットの強みといわれる「速報性」だけでなく、パブリックな情報を時系列で記録して整理する、即ちリアルタイム歴史構築的なことが行われるとすれば、今まで付き合ってきた「歴史」とこれから付き合っていく「歴史」は大分様変わりするように思います。

個人的に歴史学者や考古学者という仕事はとても夢のある仕事だと思います。浦沢直樹氏の『マスターキートン』や、司馬遼太郎氏の『この国のかたち』などに影響を受けている僕は、きっと泥臭い部分もたくさんあるのでしょうが、一種の憧れの念を持って見ています。そういう意味では、歴史学者や考古学者からGoogleが、未知へのロマンを取り上げてしまうのではないか、という不安もあります。

「歴史は作られる」とは良く言ったものですが、もしかしたらもう既に「歴史は作られている」、という時代なのではないでしょうか。

加藤 康祐 / 企画・設計

プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。Webデザインを入り口に、2005年よりフリーランスとしてのキャリアスタート。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート。ラグビーと料理、最近イラスト。

加藤康祐企画設計

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