カナエールとは何だったのか? – 124人と3万人、5,000人と1億3,000万人2017/11/12

コースケ、カナエールロスじゃねえか、と言われそうですが、実はもう少しこれからの準備と言うか助走を始めておりまして、奨学金支援の充実で、社会的養護にかかる問題が全て解決されるわけじゃないから当たり前なんだけれども、最近、色々議論していて、改めてカナエールという奨学金支援プログラムの整理が必要だなあということを感じています。ちょっとブログにも書いてみようかなと思いました。

● 124人のための対人支援プログラム

7年間、カナエールでサポートしてきた子どもたちは124人。児童養護施設で暮らす子どもたちは3万人と言われていますから、比較すればかなり少ない割合なのはこれまでも説明して来たとおりです。スピーチコンテスト、という挑戦の場に向かって120日間、3人の社会人とともに頑張る。ここにはとても手厚いサポートと情熱とボンディングがあります。一方で、3万人の子どもたちの挑戦を9万人で支える、みたいなことはカナエールのスキームでは難しい。なので、このプログラムではロールモデルとして巣立ってもらい、後に続く子どもたちの目標になってもらうこと、を目的としていました。ここで生まれた関係性を、以前、僕は児童養護施設でも里親でもない「社会の第三の子育て」みたいな言い方をしていましたが、一般の社会人がプログラムの中できちんと準備して長い時間を子どもたちと向き合うために使えたことは、その後、卒業、社会人になるに至るまでの豊かな繋がりを生みました。

● 3万人のためのアドボカシープロジェクト

ご存知かどうか、カナエールの副題には「School Entry Advocacy Program」というフレーズがついています。意訳すると「進学格差を埋めるための権利擁護や政策提言のプログラム」という感じでしょうか。これは結果的に奨学金支援の充実という国の大きな方針で達成できていて、このプロジェクトが7年間、声を大にして訴えて来たことに意味があった、と言えるのだろうと思います。特にメディアの情報発信と比べても、寄附をしたり、ボランティアとしてプログラムに参加したり、チケットを購入して実際に来場したりという、声を受け取った人にコミットメントを求めるというか、ハードルを超えてもらおうとする働きかけを伴っていたのが、NPOのフィールドで実行されるプロジェクトであることの意義だったなあと思います。

● 5,000人の来場者、夢スピーチコンテスト

7年間、東京、横浜、福岡で開催されて来た夢スピーチコンテスト、来場者はおよそ5,000人。プライバシーの観点からも本来守られなければいけない子どもたちに、観衆の前でスピーチをしてもらい顔の見える支援を実現する。これがカナエールがイベント開催型のプロジェクトだった理由です。ここに向かってたくさんのステイクホルダーの力を借りて(結集して)プロジェクトは成り立っていました。ちなみにチケット販売期間、Webサイトへの訪問数は10万人ほど、最後の年の開催の来場者数を考えると、実際に足を運んでくれた人はカナエールのWebサイトに来てくれた方々のおよそ2%ほどになります。ここには5,000人に子どもたちの声を伝えられたという一次的情報伝達と、そのために10万人に社会的養護の現状を伝えられたという二次的情報伝達と(もちろん、この他にもマスメディアで見かけた、イベントで話を聞いた、などのコンタクトポイントもあります)があります。

● 子どもの貧困に向き合う1億3,000万人とそのための制度

さて、5,000人、そのためにリーチする10万人考えても、日本の総人口から考えると小数点がたくさん並びます。児童養護施設で暮らす3万人の子どもの予備軍は9万人はいるとも言われています。国の方針も里親への移行の指針など、先の奨学金支援の充実含め、大きく転換点を迎えている一方で、虐待などの問題は未だあり、子どもたちが社会に出てドロップアウトするケースもあります。1億3,000万人が3万人のために働きかけるには具体的な制度が必要で、わかりやすい例は法律で、わかりやすい参加の仕方は税金です。カナエールはそのためのサンプリングだった(部分的に抽出して問題解決をしてそれをスケールした)とも言えそうです。

● 本当はやってはいけない、とても歪なプロジェクト

冷静に考えると、124人のために集中的にあれだけの社会資源を投入した(サポーター、ボランティア、スポンサーなどなど)カナエールは、とても歪なプロジェクトです。本当は子どもたちは3万人いるからです。なのですがこの取り組みの歪さってあまり批判を聞いたことがなく、というのも、まだまだ制度が整備されていなかった世の中で、「それしか方法がなかった」からと言えます。結果的に奨学金支援の充実は、124人のサポートに徹したという意味でも、5,000人の来場者に伝えたという意味でも、大きな救いだったのだろうと思います。子どもたちの中にも、「やった、後輩も進学できるようになる!」と思った子はいるかも知れませんし、来場者の中にも、「カナエール、足を運んだ1人になって良かった!」と世の中の変化を一緒に喜んでくれた人もいたかも知れません。「本当はやってはいけない」が、ちゃーんと、「やってて良かった」、になったこと、これってすごいことだと思うんですよね。世の中をそういう方向に向けてくれた、そのために働きかけてくれた色々な人達に感謝しないといけない。それで救われたんだな、って思います。

● これからのこと

これから色々考えていかないといけないのですが、一つ明確に言えるのは、進学というのはとても社会のリソースを集中しやすい対象だったということです。わかりやすかった。もう一つ大きな対象に就労があります。この2つを経て社会人として巣立っていくことが、一般的な子どもが大人になることの道筋かなあと思います。進学を促進することや、就労を支援していくこと、今後も様々な団体がそれぞれに連携しつつ進んでいくと思います(月曜日は他の団体の代表が登壇するイベント聴きに行きます)。一方のカナエールですが、奨学金支援という資源を集中させていた部分がぽっかり空きました。なので、これまで集中させていた社会資源は浮いている状態です。一方で、子どもたちを取り巻く状況や環境に問題は山積している。なので、自分たちの取り組みを「大きく改善する」チャンスかなあと思っています。

やっぱりこうした社会的な取り組みって、「人が動く」ことに大きな意義があって、だからこそ、124人を見て来た視点と、3万人を見守る視点、5,000人と向き合って来た視点と、1億3,000万人に働きかける視点が必要なんだろうと思います。

Webサイトで言ったら、リニューアルでしょうか。7年間、大きな構造の中でそれぞれに役割分担をして機能していたプロジェクト、大きく組み替えるために整理して改善してブラッシュアップする。まだまだ全然良くなる、そういうことを思っています。

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