2016/3/20

博士の愛したSF – 『人工知能は私たちを滅ぼすのか―――計算機が神になる100年の物語』児玉哲彦

嗚呼、児玉神、Kodamachine。児玉哲彦さんとは同年代、母校も同じながら社会人になって知り合った友人で(僕があんまりきちんとした大学生やってなかったからだけど)、ビジネスでもプライベートでも随分長くお世話になっており、ET Luv.Lab.でもインタビューしてるけれど、初対面の印象とか「こういう人、マッド・サイエンティストって言うのだろうな」と思ったくらいで、テクノロジーが描く未来をひたすら嬉しそうに語る、ちょっとそれまでに会ったことないタイプの人でした。児玉君が本の執筆に着手するという話はちょうど昨年の春くらいに聞いていて、酒飲みながらプロット聞かせてもらったりしつつ、なんかすごいことになりそうだなあと思っていたのですが、先日、晴れて出版となり献本いただきまして、この連休読んでいました。

人工知能は私たちを滅ぼすのか―――計算機が神になる100年の物語
児玉 哲彦
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 1,046

圧巻です(言い切った)。SF調のリードと先達の研究者による研究とその成果を軸にするしかし読みやすいカジュアルな論考で各章が書かれており、前半は人という生き物が情報を扱うようになってからコンピューターに至る歴史を、後半は人工知能を中心に現代の先端テクノロジーが2030年という近未来にどういう世界をもたらすかを、聖書なども引用しつつ、神への人の信仰やそれにまつわる伝承を参照しながら、ITの世界に詳しくない一般の人にもその長い歴史とその重みをわかりやすく説明しています(何を言ってるんだと思われそうだけど、本当にそういう内容)。極めて野心的な創作で、でも、未来への教科書でもあろうとしたというような。SFのパートにも、現代への風刺が含まれていたりして、多分に、エンターテインメントでもあろうとしている。総じて、なんかすごい。

人へのフォーカス

いくつか思ったことがあるんだけど、まずはこのクロニクルはその多くが先達の研究者の研究とその成果を軸に書かれているという点。この辺、やはりアカデミシャンだよな、と思いながら読んでいたのだけど、世界の変化、イノベーションは、そこに執着した研究者の功績に紐付いてる、ひとりひとりの先達への敬意が強い論考だなあと思いました。児玉君はよくスティーブ・ジョブスを引用するけれど(愛称、「こだまっく」だったらしいし)、一人ひとりの研究者、例えば、チューリングとかノイマンとかコンピューターの歴史を作った人たちが引用されることもあれば、アイザック・アシモフやアーサー・C・クラークのようなSF作家が引用されることもあれば、ニーチェやデカルトのような哲学者が引用されることもある。あと、研究者のない時代のもの、ヨハネの黙示録やアーサー王物語が引用されることもある。色々な時間軸の色々な人物の叡智で編纂された内容という感じでした。きちんとエビデンス・ベースの話にしようとしたというか。

神というメタファー

あとこの物語は、「神」というある種最強のメタファーが用いられているのだけれど、そういう突き抜けちゃってる感じというか、ちょっと危うい感じというか、ただの歴史だったらもしかしたら読み手を飽きさせてしまうテーマかも知れないのだけど、ロジックとレトリックでずーっと飽きさせない感じがあって(ずっとワクワクしながら読みました)、この辺は物語の作り込みとして上手だなあと。ちゃんとエンターテインメントになっている。表紙のイラストレーションと、SF仕立ての主人公設定からしてそうなのだけれど、ちゃんと読者に楽しんでもらおうという意図がありつつ、でも読者に媚びずに児玉節が炸裂してて、とても面白いです。

人工知能とのつきあい方

さて、本書のテーマ、人工知能は私たちを滅ぼすのか、というようなことについて、僕が思ったことなのだけれど、人工知能がこれから様々な分野で、他の先端テクノロジーと相まって、急速に社会の骨格を組み替えていく、という時に、その重要性は極めて高くて、多くのビッグプレイヤーは既に参入して開発を進め、最近はニュースを賑わすことも増えてるという状況の一方で、「スモールプレイヤー」は何を考えれば良いのだろうということを少し考えました。おそらく人工知能にとって「有益なデータ」とか「それを収集する仕掛け」とか「活用され得る材料」とか「接点での結びつきの強さ」とか「ニッチで固有な代替不可能性の高さ」とか、そういうものが生き残るのかなとか。例えばビジネスで言うと「企業へのブランドロイヤリティの極めて高い顧客についてことこまかに趣味嗜好を把握している」とか、もっと普通なことで言うと「人のその日の体調に合わせて今ある材料だけで丁寧に美味しい料理作れる」とか。なんかそういうことなのだろうな、という感じがします。まあだから、逆説的なんだけど「人工知能がコアになって行われる社会活動に対する有用性」みたいなところに強みを設計しておく必要があるというか。

まとめ

黙示録のようであり、最終的に福音書のようであり、なんかすごいもの読んじゃったなという感じではあるのだけど、とても良い本だったと思うし、このテーマでこれだけエンターテインメントに振って、きちんと時系列での知識と知恵の体系を学べるというのはあまり類がないと思うし、何より読み物として面白いです。情熱と偏愛と良識の折り重なったもの。あらゆる意味で他の人に書ける内容ではないと思いますし、お薦めです。いやあ、よく書いたね、しかし。圧巻。

人工知能は私たちを滅ぼすのか―――計算機が神になる100年の物語
児玉 哲彦
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