
中庸に帰す
今日の話をしようと思います。2016年3月11日。5年間の振り返りは先日「5年目の3月11日 – 5年間の振り返りと、これから何を続けていけるのかということ」ということでまとめてあります。その記事にもあるユレッジのメインで関わる2人とたまたま話した1日でした。示し合わせたわけではないけど、たまたまそうなって、それは良いことなのではないか、と皆思っていたようにも思います。
今日の話。
夕刻、SmartNewsの通知で「震災5年 天皇陛下のおことば全編配信」というのを見ました。普段、そういうものを見るタイプではないのだけれど、何か今日の心持ちでは、それはとても大事なのではないかという風に思えて、5分ほどの動画を見ました。
震災5年 天皇陛下の「おことば」全編配信|日テレNEWS24
強く気持ちを突き動かすようなものではない。激しく心を揺さぶるようなものではない。TEDのスピーチのようではない。なのだけれど、話を聞いていて、すとんと臓腑に落ちる感じがあり、これはだから今この時に日本で語られるべき極めて中庸な文脈、ということではないのかという感じがしました。自分をきちんと調律された感じがあった。誰に感謝をして、誰を敬って、何を畏れ、何を信じ、何を祈るべきなのか、というようなこと(些末なツッコミは入れられるのかも知れないけど、全体感として僕はこれが中庸と感じた)。
夜、少しお酒を飲みながら、この話をして、震災後、混乱の中で、未曾有の事態と対峙し、不安と悲哀に駆られ、何かやれることはないかと探し、力及ばざるを悔やみ、手探りな中で近い未来を描く努力をする状況にあって、多くの人はしかし指向性として、人間の状態として、極めて中庸にあったのではないかという話をしました。極限状態の中で中庸であろうとする努力をしていたというか。そして、あの状態は取り戻せないのではないか、という話をした。
5年間で色々なことにバイアスがかかりました。それは語らずとも知れた話と思うけど、そういう時節にあって、先のリンクの「ことば」というのは、中庸を思い返せるもので、だから調律された感じがあったんですよね。
僕は震災の当日、地元におり、被災地からは遠く、被害といえども停電くらいでした(当初はそれも大きな闇だったけども)。ただ、震災があって数日後、とても記憶に残っていることがあり、今日話しをしながら久し振りに思い出したのだけれども、都市部でも物流が復旧してない時に、品不足のスーパーで、女性が「パンが食べたい」と大きく叫んだのを覚えています。パンが食べたい、という嗚咽というか慟哭だった。
おそらくは、大きな不安が、たまたまパンがない、というところに着地しただけのことのはずで、被災地はもっと辛いはずとか、パンくらいでとは思えず、ただ、辛いんだろうな、という気持ちが残りました。もしかすると、辛いと誰かが言ったことは、周囲の不安を駆り立てるものではなく、周囲にある意味の安堵を生んだのではないかとさえ思う。それは中庸であろうとする努力をしようと皆がしていた時期だったからなんじゃないかなあとか思います。
ちょっと掴みどころのない話をしようとしているのかも知れないけれど、今日という日に震災の記憶を辿っても、震災の記録を目にしても、震災に向けた思いを読んでも、中庸であることを是と思えるのは、5年間が生んだこととも言えるし、そこに静かな言葉を欲した、今日という日にそぐうと思った、というのが今日の気付きなのかなあと感じました。
ちなみに先の映像の中に「一同」という言葉が出て来て、あそこにあった「一同」という言葉の「一同」であるということに僕は違和感がなかったという話をしたら、今日の話し相手もそう感じた(ちゃんと僕に会う前に観て来ていた)、と言っていたのだけど、国民総活躍社会と言われた時に感じる大きな違和感とは明らかに真逆のもので、なんか日本というものの5年後の中庸を見た、そんな5分間だったなと感じました。
勿論、中庸に帰すというのは歩みを止めるとか、問題意識が薄まるとか、過去のことを忘れるということでは到底なくて、リセットするということでもなくて、ただ正しい骨格に矯正したところから、もう一度考えることを始めるというのは、この5年後という時節に大事なことなんじゃないかと思えて書きました。
なんかそんな日だった。

加藤 康祐 / 企画・設計
プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。Webデザインを入り口に、2005年よりフリーランスとしてのキャリアスタート。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート。ラグビーと料理、最近イラスト。
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フリーランスとして働き始めるってどういうことだったのか?フリーランスとして働くってどういうことなのか?フリーランスが目指すことってなんなのか?5年間の自分の経験から書きました。(2010年執筆)