2007/1/24

箱庭的世界への憧憬

閉ざされた空間というのは敬遠されがちです。トイレや押し入れや納戸なんかがそうですね。しかし、何もそう言った極めて閉ざされた空間だけでなく、オープンキャンパスなんて言葉がある通り、多くの学校は普段は一般に対して閉ざされた世界です。学校だけではなくて会社も病院や家庭もそうでしょう、人が集まって営みを送るところには「内」と「外」があります。何だかそういう場所に改めて目を向けると、閉塞感を感じ得ませんが、しかし多くの人はそういう小社会で一日の大半を過ごします。

ホラーやサイコスリラーやサスペンスはそう言った閉ざされた空間でこそ、その力を遺憾なく発揮しますが、恐怖や畏怖を駆り立てるだけでなく、「不思議の国」的なファンタジー、その幻想的な世界も、そこが周囲と閉ざされた異界であるがゆえに、その幻想的な世界を楽しむことができます。手の届く範囲、目の届く範囲で、様々なイベントが繰り広げられるからこそ、エッセンスが凝縮され、その空間が魅力的に映るということがあるのではないでしょうか。

「閉ざされた空間へのエッセンスの凝縮」、この対象に一番近しい日本語は「箱庭」という言葉だと思います。英語で言うところの「Miniascape」です。場面が目まぐるしく切り替わる、アクションムービー的なストーリーも楽しいですが、僕が殊に惹かれるのは、作者が隅々まで展開される物語をコントロールし得る空間、「箱庭」で展開される、些細な一つ一つの描写が物語の上で大きな意味性を発揮し得る世界です。

「限定される」ということは、しばしばクリエイティビティの阻害要因と考えられがちですが、手段を限定されることが、そこに形式を生み、基準を生み、限定されるからこそ研磨される美しさというのがあるのではないかと思います。日本庭園がその最たる例でしょう。限られた空間の中に、自然を織り込み、造形を織り込み、四季を織り込む。その隅々まで計算され尽くされた美というのは、創造者がその「箱庭」全体をコントロールし得ているからこそ生まれるものだと思います。

敬愛する恩田陸氏の作品群も、その多くは「箱庭的世界」において語られます。無暗に広げるのではなく、様々なエッセンスをある空間に凝縮することで、受け手にとってみても、より感受性が研ぎ澄まされ、些細な世界の変化に目を向け耳を傾け、鋭敏に想像力を働かせる環境が整えられることになります。

自分の生活サイクルの中で、自分の箱庭と呼べる空間がいくつあるでしょうか。自宅だったり、オフィスだったり、行きつけの喫茶店だったり、お気に入りの美術館だったり。新しい場所を開拓するだけでなく、必然として自分が接する機会の多い「箱庭」に、より多くの感心と注意を向ければ、些細な出来事から、思いもよらない素敵な物語を紡ぎだせるかも知れません。

加藤 康祐 / 企画・設計

プランナー、デザイナー。加藤康祐企画設計代表。Webデザインを入り口に、2005年よりフリーランスとしてのキャリアスタート。主な仕事としてベンチャー企業でのサービスのUXデザイン、独法との防災メディアの運営、社会的養護の子どもたちの自立を支援するNPOのサポート。ラグビーと料理、最近イラスト。

加藤康祐企画設計

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(2012-10-5)
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